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忘年会で盛り上がる社内恋バナに、目立たない私が語った誰も知らない彼の話【短編小説】

忘年会で盛り上がる社内恋バナ
会社の忘年会。お酒も入り、恒例行事のように始まったのは、女子社員による「社内恋バナ」でした。
「やっぱり、営業部の圭介さんが一番かっこいいよね!」
「わかる!でも彼女いるのかな?ミステリアスだよね」
「きっとモデルみたいな、すごく綺麗な人なんだろうなあ」
私の名前は聡美。総務部で、どちらかといえば目立たない存在です。
同僚の奈々さんや梨花さんが、社のエースである圭介さんを相手に、妄想を膨らませて盛り上がるのを、私はウーロン茶を飲みながら、ただ黙って聞いていました。
彼女たちにとって、私は恋愛とは無縁の、真面目でおとなしい同僚。
まさか私がその圭介さんと付き合って一年になり、一緒に暮らしているなんて、夢にも思っていないでしょう。
同僚が聞いてきた質問に私は…
ひとしきり盛り上がった後、奈々さんが「そういえば」と私に話を振ってきました。
「聡美さんはどう思う?圭介さんって、一体どんな人がタイプなんだろうね?」
みんなの視線が、私に集まります。
きっと「さあ…優しい人とかじゃないですか?」なんて、当たり障りのない答えを予測していたことでしょう。
私は、にっこりと微笑んで、グラスをテーブルに置きました。
そして、ゆっくりと口を開きます。
「そうですね…。ちなみに、彼の好きな食べ物は、私が作る生姜焼きです」
忘年会の場が一瞬で凍りました
一瞬の沈黙。
そして、奈々さんと梨花さんの顔が、みるみるうちに固まっていくのが分かりました。
きょとんとした後、言葉の意味を理解し、さっと顔色を変えていく。
私が言ったのは、ただの事実。
でも、それは彼女たちが作り上げた「高嶺の花である圭介さん」のイメージを、一瞬で破壊するには十分すぎる一言でした。
それ以上、誰も圭介さんの話をすることはありませんでした。
その日、忘年会で一番盛り上がった恋バナに、静かに終止符を打ったのは、ずっと黙っていた私の、ささやかな一言だったのです。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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