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映画で爆睡した彼氏「つまんなかった」→その一言で別れを決意。帰りの車内を地獄の空気にした【短編小説】

付き合って半年になる彼、大樹とのデートは、いつも少しだけ何かがズレていました。その「ズレ」が決定的な「断絶」に変わったのは、一本の映画がきっかけでした。
私がずっと楽しみにしていた映画
その日、私たちが観に行ったのは、私がずっと公開を楽しみにしていた、ある巨匠監督のヒューマンドラマでした。難解だけど、観終わった後に人生について深く考えさせられる、そんな作風で知られる監督です。私はこの日のために、過去作を全て見返し、準備万端でした。
「この映画、本当に評価高いんだよ。大樹もきっと好きだと思うな」
映画館の席で、私は興奮気味に話しました。彼は「ふーん」と、あまり興味がなさそうな返事。少し不安がよぎりましたが、本編が始まれば、きっとこの世界に引き込まれるはずだ、と自分に言い聞かせました。
しかし、私の期待は、映画開始20分で裏切られました。隣の席から、静かですが、規則正しい寝息が聞こえてきたのです。信じられない気持ちで横を見ると、彼は気持ちよさそうに眠っていました。
彼の「つまんなかった」という一言
2時間の上映中、彼が起きていたのは、おそらく最初の30分と最後の15分だけ。エンドロールが流れ、場内が明るくなっても、彼はまだ眠そうに目をこすっていました。
「…どうだった?」
私の声が、少し震えていたかもしれません。映画の感動と、隣で寝ていた彼への失望感で、感情がぐちゃぐちゃでした。彼は大きなあくびを一つして、こう言ったのです。
「いやー、正直つまんなかったわ。なんか話、暗くね?」
その瞬間、私の中で、何かがプツンと切れました。 私がこの2時間で感じた、人生の儚さや愛おしさ、そういった全ての感動が、彼の「つまんなかった」という一言で、無価値なものにされた気がしたのです。
帰りの車内を「地獄の空気」に
映画館からの帰り道、彼の運転する車の中は、重い沈黙に包まれていました。
「で、あかりはどうだったの?あの映画」
耐えきれなくなったように、彼が口を開きました。私は、窓の外を見つめたまま、静かに、そしてはっきりと答えました。
「うん、私も、つまんなかった」
「え?そうなの?じゃあ、なんであんなに観たがってたんだよ」
「映画が、じゃないわ」
私はゆっくりと彼の方を向いて、最高の笑顔を作って言いました。
「あなたと過ごした、この半年のこと」
彼の顔が、みるみるうちに固まっていくのが分かりました。カーラジオの音だけが響く車内は、まさに地獄のような空気。私は、自分の心の中に芽生えた、冷たい満足感を感じていました。
自宅に着くまで、私たちは一言も口をききませんでした。彼との関係は、あの映画のチケットと一緒に、私の心の中で静かに破り捨てられたのです。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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