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「親の介護とか業者で充分でしょ」と言ってた兄が、母が亡くなった夜に見せた、意外な姿とは?【短編小説】

母の最期と、冷静すぎた兄
母が息を引き取ったのは、月がぼんやりと滲む、静かな夜のことでした。
数年にわたる母の介護。私は仕事を調整しながら、できる限り母のそばにいることを選びました。一方、実家を離れて暮らす兄は、たまに顔を見せる程度。
「お前も無理するなよ。親の介護とか業者で充分でしょ。その方がお互い気楽だ」
それが兄の口癖でした。悪気がないのは分かっていても、その言葉を聞くたびに、私の心には冷たい何かが広がっていくのを感じていました。
「気楽」とか「業者」とか、そういう言葉で割り切れるものではないのに。兄にとって、母のことはその程度のものなのかと、寂しさを禁じ得ませんでした。
母が亡くなったその日、病院から連絡を受けて駆け付けた兄は、驚くほど冷静でした。
「今までありがとうな」
母の顔にそっと手を触れた後、兄はすぐに切り替えたように、葬儀社への連絡や、親戚への訃報の連絡などを淡々とこなし始めたのです。
取り乱す私を見て、「お前も少し休め。あとは俺がやる」と言うだけ。その背中はあまりにも頼もしく、そして、あまりにも他人行儀に見えました。私たちが一緒に失ったのは、たった一人の母親なのに。
不器用な兄が隠していた、本当の想い
その夜、自宅に戻り、母の遺影の前で呆然としていた時のことです。
ふと、隣の台所から、ごそごそと物音が聞こえました。こんな時間に誰だろうと、そっと扉を開けると、そこにいたのは兄でした。
兄は、冷蔵庫の前に立ち、タッパーに残っていた母の手料理…最後の力を振り絞るように作ってくれた、少し形の崩れた「だし巻き卵」を、黙って口に運んでいたのです。
「……ん」
不意に、兄の口から小さなうめき声が漏れました。
暗い台所で、兄は、太い背中を丸め、声を殺して泣いていました。
「……ちょっと、しょっぱいな。これ」
だし巻き卵を頬張りながら、嗚咽混じりにそう呟く兄。その手は、タッパーを握りしめたまま小刻みに震えています。
「業者で充分」なんて強がっていたけれど、兄は兄なりに、母のことが大好きだった。ただ、どうやってその気持ちを表していいか分からない不器用な人だったのです。
母の味を噛みしめ、一人静かに涙を流す兄の姿に、私は今まで兄に対して抱いていたわだかまりが、すうっと消えていくのを感じました。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
※本コンテンツのテキストの一部は、生成AIを利用して制作しています。
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