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「ベビーカーで通路塞ぐなよ」と駅で押してきた男性。駅員が注意したのは男性のある荷物だった【短編小説】
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突然の怒声
休日の駅というのは、どうしてこれほどまでに人の心を荒ませるのでしょうか。
その日、私は生後半年の息子をベビーカーに乗せ、雑踏の中にいました。
久々の外出への高揚感は、改札を抜けた瞬間に萎み、代わりに張り詰めた緊張感が胸を支配しました。
「通りまーす、すみません」
誰にも聞こえないほどの小さな声で呟きながら、私は身体を縮こませて歩きます。
息子を守らなければという使命感と、周囲に迷惑をかけてはいけないという強迫観念。その二つが、ベビーカーを握る手にじっとりと汗を滲ませていました。
エレベーターへの動線が見え、ふっと息を吐いた、その瞬間でした。
ドガッ!
鈍い衝撃と共に、ベビーカーごと身体が大きくよろけました。車輪が悲鳴を上げ、息子が火がついたように泣き出します。何が起きたのか理解するより先に、頭上から罵声が降ってきました。
「チッ、邪魔なんだよ! ベビーカーで通路塞ぐなよ!」
見上げると、そこには眉間に深い皺を刻んだ男性がいました。私を睨みつけるその目は、明確な敵意に満ちていました。男性は私を追い越す際、わざと押してきたのです。
「すみません、すみません……」
恐怖で思考が停止し、私はただ謝ることしかできませんでした。私が端を歩いていなかったから? 動きが遅かったから? 自分の存在そのものが罪であるかのように感じ、足が震えて止まりません。
男性は舌打ちを残し、踵を返そうとしました。しかし、その背中に凛とした声が突き刺さりました。
男性が赤っ恥をかいたワケ
「お客様、少々お待ちいただけますか」
駅員さんでした。制帽を目深にかぶったその駅員さんは、男性の前に立ちはだかると、静かに、しかし確固たる口調で告げました。
「通路を塞ぎ、周囲の危険となっているのは、お客様のお荷物の方です」
その視線は、男性の後方を見ていました。
男性の手には、持ち手が限界まで伸ばされた特大のキャリーケース。それは彼が歩くたびに振り子のように大きく左右に振れ、まるで凶器のように周囲の人々の足を脅かしていたのです。
しかも彼の手にはスマートフォン。画面に夢中で、自分が作り出している「幅」に全く気づいていなかったのです。
「ベビーカーのお客様は、周囲に配慮し、端を歩かれていました。対して、お客様のそのキャリーケースの引き方は、通常の二倍以上の幅を占有しています」
駅員さんの指摘に、周囲の視線が一斉に男性へと集まりました。「危ないと思ってた」「あれは酷いよ」というさざめきが聞こえ始めます。男性の顔は瞬く間に赤くなり、逃げるように雑踏へと消えていきました。
「お怪我はありませんか?」
駅員さんの優しい声に、張り詰めていた糸が切れ、涙が溢れました。恐怖が安心へと変わる中、私は強く心に誓いました。
もう、不当な悪意にただ謝るだけの自分はやめよう、と。ベビーカーのハンドルを握る手に、確かな力が戻っていました。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
※本コンテンツのテキストの一部は、生成AIを利用して制作しています。
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