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彼の母親に「もっと綺麗な子がいい」と言われた私。→数年後、逆に頼られた瞬間の気持ちよさ【短編小説】

私を否定する彼の母
『圭介には、もっと家柄も良くて、綺麗な子のほうが似合うんじゃないかしら』
恋人だった圭介の母、恭子さんに初めて挨拶した日。
席を外した私の耳に、彼女がそう言ってのけるのが聞こえてしまいました。
私の容姿や家庭環境が、彼女のお眼鏡にはかなわなかったのです。
その言葉は、何年経っても、私の胸の奥に小さな棘のように刺さり続けていました。
その後、圭介は恭子さんの反対を押し切って、私と結婚してくれました。
しかし、恭子さんとの関係は、どこかぎこちないまま数年の月日が流れたのです。
私は、見返したい一心で、仕事に打ち込みました。
ウェブデザイナーとして独立し、自分の力で、自分の価値を証明したかったのです。
状況を一変する”ある出来事”
そんなある日、夫の圭介から、慌てた様子で電話がかかってきました。
恭子さんが営む、老舗の和菓子店の経営が、危機的状況にあるというのです。
時代の流れについていけず、客足は遠のき、もう閉店するしかないと。
「沙織、頼む。母さんの店を、お前の力で助けてやってくれないか」
電話の向こうで、圭介が必死に訴えています。
数日後、私は恭子さんの前に座っていました。
プライドの高い彼女は、憔悴しきってはいるものの、なかなか「助けて」の一言が言えません。
私は黙って、ノートパソコンを開きました。
そして、私がこれまで手掛けてきたホームページや、成功させたオンライン販売の実績を見せたのです。
そして、彼女のお店の現状を分析し具体的な再建プランを、専門家として冷静に説明しました。
私の話を聞くうちに、恭子さんの顔から、私を値踏みするような色が消えていきました。
その目に浮かんでいたのは、驚き、そして、次第に尊敬の色へと変わっていきます。
やがて彼女は、深々と、私に頭を下げました。
「……沙織さん。どうか、あなたの力を貸してください。お願いします」
その瞬間、私の胸の奥にあった、長年の棘がすっと溶けていくのを感じました。
彼女がかつて否定した、私の価値。
それは、容姿や家柄などではなく、自分の力で努力で未来を切り開くこの強さだったのだと。
「はい、お義母さん。一緒に頑張りましょう」
最高の笑顔でそう答えた私に、彼女は、涙を浮かべながら、何度も頷いてくれたのでした。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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