Share
「奢るよ」と言ったくせに、会計時に「わり、5千円貸して」と言ってくる先輩。もう貸したお金、10万超えてますけど?【短編小説】

困った癖がある先輩
職場に高木(たかぎ)さんという先輩がいます。
仕事はできるし、面倒見も良く入社したての頃の私、奈々(なな)にとっては、頼れるお兄さんのような存在でした。
でも、彼には一つ、どうしても理解できない困った癖があったのです。
高木さんは、後輩を飲みに連れて行っては「ここは俺が奢るよ!」と気前よく言ってくれるのですが、いざ会計になると決まってこう言うのです。
「わり、奈々!ちょっと持ち合わせなくてさ、5千円貸してくれない?」
最初のうちは、「たまたま手持ちがなかったのかな」「いつもお世話になってるし」と、深く考えずに貸していました。
「今度返すから!」という言葉を信じて。
しかし、その「今度」が訪れることは一度もありませんでした。
その癖は常態化し、貸す金額も次第に大きくなっていきました。
千円が三千円になり、五千円になりついには一万円を「貸して」と言われることも。
断れない気の弱い私は、「またか…」と心の中でため息をつきながらも、財布からお札を抜き取ってしまうのでした。
貸した金額の合計金額を見ると…
そんなある日の夜、ふと「一体、今までいくら貸したんだろう?」と気になり、スマホのメモに残していた記録を計算してみることにしました。
日付と金額が並んだリストを足していくと指が震えました。
合計金額は、10万7千円。
愕然としました。
ただの飲み代として消えていくには、あまりにも大きな金額です。
私の手取り給料の半分以上が、高木さんの「奢るよ」という言葉と共に消えていたのです。
翌日、私は思い切って同僚の真由(まゆ)に相談しました。
すると、真由は呆れた顔でこう言いました。
「やっぱり奈々ちゃんもだったんだ。高木さん、他の子にも同じことしてるって噂だよ。はっきり言わないとダメだよ!」
真由の言葉に、私はようやく目が覚めました。このままじゃいけない。
自分のためにも、この腐った関係を断ち切らなくては。
私は、次に「貸して」と言われたら、きっぱりと断って、これまでの分も返済を求めようと固く心に誓いました。
仕返しの時が来た
チャンスはすぐに訪れました。
その週の金曜日、高木さんがいつもの調子で声をかけてきます。
「奈々、今日飲み行くぞ!パーッと奢ってやるからさ!」
そして案の定、会計時。彼は財布をチラッと見て、申し訳なさそうな顔もせずに言いました。
「わりぃ、奈々!今日は1万貸して!」
私は、深呼吸を一つして、準備していた言葉を口にしました。
「高木さん、すみません。もうお金は貸せません」
きっぱりとした私の口調に、高木さんは一瞬きょとんとします。
私は続けました。
「それに、今まで貸していたお金、計算したら10万円を超えていました。このメモが証拠です。いつ、返していただけるんでしょうか?」
スマホのメモ画面を突きつけると、彼の顔色が見るみる変わっていきました。
周りの席の人たちも、私たちのやり取りに気づき始めています。
気まずくなった高木さんは、顔を真っ赤にしながら「わ、わかったよ…来月の給料日に、全額返すから…」と、ようやく返済を約束してくれました。
その言葉通り、高木さんはお金を返し、それ以来私を飲みに誘うことはなくなりました。
お金の貸し借りはどんなに良い関係でも壊してしまう。
そして、嫌なことは勇気を出して「ノー」と言うことの大切さを身をもって学んだ出来事でした。
この記事を呼んだ人が次に読む人気小説はこちら
「映画観るより自己投資しろ」と意識高い系セミナーに勧誘してくる先輩。→「年間100本映画を観るのが私の自己投資です」と一蹴した。
Feature
おすすめ記事