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いつもタクシーで遅刻してくる彼。正体はクーポンで見栄を張る、ただの“暇人”だった【短編小説】

毎回遅刻する彼氏
私の元カレ、健太は、デートに必ず遅刻してくる人でした。
それも、五分や十分ではありません。
一時間近く遅れてくるのが当たり前。
そして、まるで映画のワンシーン気取りで、必ずタクシーで乗り付けるのです。
「ごめん、急な仕事でさ!道も混んでて大変だったよ」なんて言いながら、悪びれもせずにドヤ顔で降りてくるのがお決まりのパターンでした。
最初の頃は、私も「仕事がデキる忙しい人なんだ」「お金にも余裕があるんだな」なんて、彼の見栄を好意的に解釈していました。
でも、それが毎週のように続くと、さすがに我慢の限界です。
予約していたレストランに迷惑をかけたり、楽しみにしていた映画の冒頭を見逃したり。
私が「もう少し早く出られないかな?」と控えめに言っても、健太は「俺だって頑張ってるんだよ。タクシー代だって馬鹿にならないんだぜ?」と、どこか話をすり替えるのでした。
スマホの画面から見えた真実とは
そんなある日、私たちの関係を終わらせる決定的な出来事が起きます。
カフェで健太が「ごめん、スマホの充電貸して」と私のカバンにスマホを置いた時、画面にタクシー配車アプリの通知が見えたのです。
彼が席を立った隙に、見てはいけないと思いつつも、私は誘惑に勝てずにそのアプリを開いてしまいました。
「…え?」
思わず声が漏れました。
乗車履歴のページには、驚くべき事実が並んでいたのです。
支払い方法の欄には「初回限定クーポン」「友達紹介キャンペーン」といった文字ばかり。正規の料金を払った記録は、ほとんど見当たりません。
さらに、私は乗車時刻を確認して、全身の血の気が引きました。
いつも、待ち合わせ時刻ぴったりか、少し過ぎた時間に自宅付近から乗車しているのです。
つまり彼は、家でギリギリまで時間を潰し、無料クーポンでタクシーを呼び、わざと遅れて「忙しい俺」と「リッチな俺」を同時に演出していたのでした。
私のために使っていた時間もお金も、全てが嘘と見栄で塗り固められていたのです。
戻ってきた健太に、私は黙ってスマートフォンの画面を見せました。
証拠を突きつけられた彼の顔から、みるみる余裕の表情が消えていきます。
「これは、その…賢く節約してるっていうか…」しどろもどろになる彼の言い訳を聞きながら、私の心は急速に冷めていきました。
お金がないことが悪いのではありません。
嘘と見栄で人を騙し、時間を守らないその不誠実さが、どうしても許せなかったのです。私はその場で、彼に別れを告げました。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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