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「君のため」と30万貸した彼が卒業と同時に逃亡。内容証明を送りつけ、彼の親ごと秒速で回収【短編小説】

当時、私が付き合っていたのは、専門学校に通う3歳年下の彼、和也でした。彼は夢に向かって一生懸命で、私はそんな彼を心から応援していました。
「私たちの未来のため」彼の言葉を信じた私
卒業を目前に控えたある日、和也が深刻な顔で私に頭を下げてきました。 「お願いだ、沙織。卒業にかかる費用が、どうしても30万円足りないんだ。これが払えないと、卒業できない。就職も全部パーになる…」
そして、彼は私の手を取り、こう続けたのです。 「この30万は、俺たちの未来への投資だと思ってほしい。卒業して、ちゃんと就職したら、俺が沙織を絶対に幸せにするから!」
彼の真剣な瞳と、「未来」という言葉を信じた私は、なけなしの貯金から30万円を彼の口座に振り込みました。これが、地獄の始まりでした。
卒業式の翌日、彼は“逃亡”した
卒業式当日、彼は「沙織のおかげだよ、ありがとう!」と、袴姿の写真をLINEで送ってきました。私は自分のことのように喜び、ささやかなお祝いの準備をして、彼からの連絡を待っていました。
しかし、その日を境に、彼からの連絡はぱったりと途絶えました。 LINEは既読にすらならず、電話をかければ「現在使われておりません」のアナウンスが流れるだけ。SNSも全てブロックされていました。
彼は、私から30万円をだまし取り、卒業という目的を達成した瞬間、私との関係を全て断ち切って“逃亡”したのです。悔しさと悲しさで、数日間、涙が止まりませんでした。
涙の後に残った、冷たい怒りと“切り札”
でも、ただ泣き寝入りする私ではありませんでした。 涙が枯れた時、私の心には、冷たい怒りの炎が燃え上がっていました。
私は、彼が以前「実家の住所、これね」とメモしてくれた紙切れを、大切に保管していました。それをもとに、すぐに行政書士に相談。彼の行動が明らかな“貸し金詐欺”にあたることを確認し、正式な手順を踏んで、一枚の書類を作成してもらったのです。
それは、「内容証明郵便」。 いつ、誰が、誰に、どんな内容の手紙を送ったかを、郵便局が証明してくれる、法的な力を持つ手紙です。私はその手紙に、貸した30万円の返済を求める旨を、冷静に、しかし断固として書き記しました。
秒速で振り込まれた30万円と、彼の“社会的”な死
内容証明郵便を、彼の実家宛に発送してから、わずか2日後のことでした。 私のスマホに、見知らぬ番号から着信がありました。電話の向こうから聞こえてきたのは、震える声で謝罪を繰り返す、和也の母親の声でした。
「本当に、申し訳ございません…!息子の愚行は、私たちが責任を取ります…!」
そして、その電話から1時間もしないうちに、私の口座には、30万1円が振り込まれていました。1円は、おそらく振込手数料なのでしょう。
お金は、全額きっちりと返ってきました。でも、彼が失ったものは、30万円だけではありません。私からの信頼、そして何より、自分を信じてくれていたはずの、両親からの信頼も完全に失ったのです。
甘い言葉で私から奪った30万円は、彼の未来を照らすどころか、彼の人生に一生消えない“汚点”を刻みつけたのでした。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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