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去年彼がくれた服を着て行ったら→「その服、派手じゃね?」。彼は、全てを忘れていた【短編小説】

彼からもらったお気に入りのワンピースを着ていったら…
付き合って2年目の記念日。
彼氏の拓海とのディナーのために、私はクローゼットの奥から一着のワンピースを取り出しました。
鮮やかな花柄がプリントされた、少しだけ華やかなデザインのワンピース。
普段、落ち着いた色の服ばかり着ている私にとって、これは少し挑戦的な一着でした。
でも、これには特別な思い出があったのです。
去年の私の誕生日に、拓海がプレゼントとして選んでくれたものでした。
「美緒はいつもシンプルだから、たまにはこういう明るいのも絶対似合うよ!」
そう言って、照れながらも一生懸命選んでくれた彼の顔を、今でもはっきりと覚えています。
だからこそ、今日の記念日に着ていきたかったのです。
待ち合わせ場所に着くと、拓海は少し先に着いて待っていました。
私の姿を見つけると、彼は一瞬、眉をひそめたように見えました。
そして、開口一番に言った言葉は、私が全く予想していないものでした。
なんでそんなことを言うの…
「あれ、今日の服、いつもより派手じゃね?」
一瞬、何を言われたのか分かりませんでした。
頭が真っ白になり、楽しみにしていた気持ちが一気に冷めていくのを感じます。「派手…?」その言葉が、私の胸に突き刺さりました。
「そ、そうかな?記念日だから、ちょっとだけお洒落してみたんだけど…」
そう返すのが精一杯でした。
声が震えなかったか、自信がありません。
本当は、喉まで出かかっていた言葉がありました。「でも、そのワンピースは、去年あなたが選んでくれたものだよ」と。
でも、その言葉を飲み込みました。
彼の表情から、このワンピースをプレゼントしたこと自体を、すっかり忘れているのが分かってしまったからです。
あの日の「絶対似合うよ」という言葉も、プレゼントを選んでくれた時間も、彼の中ではもう過去の、忘れてしまった出来事なのだと。
鮮やかな記憶が変わった瞬間
その後のディナーが、どんな味だったかよく覚えていません。
拓海はいつも通り優しく、楽しそうに話していましたが、私の心は上の空でした。
彼が褒めてくれた髪型も、お洒落なレストランの雰囲気も、何一つ心に入ってきません。
家に帰り、一人でその「派手な」ワンピースを脱ぎました。ハンガーにかけられたそれを見ると、去年までの輝きが嘘のように、色褪せて見えました。
彼にとっては数あるプレゼントの一つでも、私にとっては宝物だったのに。
思い出のワンピースが、少しだけ悲しい記憶のワンピースに変わってしまった夜でした。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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