BY GLAM Editorial

「お前は俺なしじゃ無理」と笑う彼氏。その“呪いの言葉”を、たった一本の“鍵”で粉砕した話【短編小説】

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同棲していた彼氏に限界だった

「お前は俺がいないと、どうせ何もできないんだから」

同棲していた彼氏、大輝の口癖でした。
最初は愛情からくる言葉だと思っていましたが、いつしかそれは私の自信を奪い、彼に依存させるための呪いのように感じるようになっていました。
彼の機嫌一つで怒鳴られ、私の存在を否定される毎日。
私の心は、もう限界でした。

ある晩、また些細なことで始まった喧嘩の末に、私は「もう無理。この家を出ていく」と告げました。
すると大輝は、ソファにふんぞり返ったまま、鼻で笑ってこう言ったのです。

「へぇ、行けるもんなら行ってみろよ。どうせまたすぐ泣いて戻ってくるんだろ？」

その見下しきった目に、私の心の中で何かがぷつりと切れました。
彼の言う通り、すぐには無理かもしれない。
でも、絶対にこの家を出て、彼なしで生きていってやると固く決意したのです。

彼が仕事でいない昼間に不動産屋を回り、親友の美咲にも協力してもらって、秘密裏に新しいアパートの契約を済ませました。
大輝は、私が本気で準備を進めているなんて夢にも思っていなかったでしょう。
私が荷造りを始めても「家出ごっこか？」とからかうだけで、本気で止めようとはしませんでした。

そして、引越し当日。
彼が出張で家を空ける週末を狙って、私は全ての計画を実行しました。
友人たちが手伝ってくれ、私の荷物はあっという間に空っぽのトラックに吸い込まれていきます。
がらんどうになった部屋を見渡し、私は深呼吸をしました。

荷物の運び出しが終わり、あとは私がこの部屋を出ていくだけ。
そう思った瞬間、ガチャリと玄関のドアが開きました。
出張先から、予定より早く帰ってきた大輝でした。

部屋の異変に一瞬目を見開いたものの、私を見つけると、彼はいつもの嘲笑を浮かべました。

「なんだよ、本気で出ていく芝居か？まぁいいさ。どうせまたすぐ戻ってくるんだろ？」

私はその言葉を待っていました。
黙ってバッグから小さなキーケースを取り出し、中から一本の真新しい鍵を取り出して、彼の目の前にぶら下げて見せました。

「……は？」

彼の顔から、すっと笑みが消えました。信じられないというように、鍵と私の顔を何度も見比べています。その表情が、驚きから焦り、そして絶望へと変わっていく様を、私は冷静に眺めていました。

テーブルの上に、この部屋の合鍵をそっと置きます。
「さようなら」と心の中でだけ呟き、私は二度と振り返ることなく、その部屋を後にしたのでした。

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。