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卒業の日に『また会おう』と約束した私たち→10年後、同じ街角で重なった視線【短編小説】

クラスメイトとの卒業式での約束
『陽菜、また会おうな。絶対』
「うん、約束」
10年前の高校の卒業式。
舞い散る桜の下で、クラスメイトの湊と交わした、ささやかな約束でした。
友達以上、恋人未満。
そんな曖昧な関係だった私たちは、互いに連絡先も聞かないまま、私と彼は、それぞれ別の街へと旅立ったのです。
大学、就職、そしていくつかの恋。
慌ただしい日々の中で、私は大人になりました。
でも、心の片隅では、あの日の湊の真剣な眼差しと、「また会おう」という言葉が、ずっと消えずに残っていました。
10年ぶりに故郷に帰ってきた
先日のことです。
友人の結婚式に出席するため、私は10年ぶりに故郷の街へ帰りました。
式が終わり、懐かしさから、高校時代によく二人で立ち寄った、古い書店の角まで足を延ばしてみました。
思い出に浸りながら、ぼんやりと通りの向こうを眺めていた、その時です。
信号待ちをしている人混みの中にいる、一人の男性と視線が重なりました。
時間が、止まったようでした。
大人びたその横顔に、面影がはっきりと残っている。
湊でした。彼もまた、私に気づき、驚きに目を見開いています。
久しぶりの再会
信号が青に変わる。
彼は、まっすぐ私の方へ歩いてきました。
そして私の目の前で立ち止まると、あの頃と変わらない、優しい笑顔で言ったのです。
「陽菜。やっと、会えたな」
「……湊」
名前を呼ぶので、精一杯でした。
涙が溢れそうになるのを、必死でこらえます。
「約束、覚えてた?」
彼の言葉に、私は何度も、何度も頷きました。
何の約束も、計画もしていなかったのに。
私たちは、10年の時を経て、思い出の街角で再び出会うことができたのです。
まるで、桜の木の下で交わした約束を、この街がずっと覚えていてくれたかのように。
私たちの物語は、卒業の日に終わったわけではなかった。
長い長い空白を経て、今ようやく第二章が始まろうとしていました。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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