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半年前に別れた彼と、仕事でまさかの再会。新しい名刺を差し出した瞬間、彼の顔が変わった【短編小説】

元彼とのお揃いの名刺入れ
かつて、職場の同僚だった彼氏の翔平とは、お揃いの名刺入れを使っていました。
一緒に頑張っていこうね、という誓いの証。
初めて二人で迎えた記念日に、奮発して買った革製品です。
しかし、私たちの関係は半年前に終わりを告げました。
別れた後も同じ職場で顔を合わせるのは、想像以上に辛いものでした。
彼の存在そのものが、楽しかった日々の記憶を呼び起こし、私の心を締め付けます。
このままではいけないと思い、私は自分の未来のために大きな決断をしました。
彼に気づかれないように水面下で転職活動を始め、先月末で、3年間勤めた会社を退職したのです。
転職後の打ち合わせに現れたのは
そして今日。新しい会社で、初めて担当するクライアントとの打ち合わせの日でした。
約束の会議室で待っていると、ドアが開き、プロジェクトの提携先の担当者として現れたのは、嘘でしょう、翔平でした。
お互いに言葉を失い、時が止まったかのようでした。
やがて、私たちはぎこちなく、ビジネスの顔で挨拶を交わし、名刺交換をします。
私の名刺を受け取った翔平は、私が使っている新しい名刺入れにちらりと目をやりました。
そして、周りには聞こえないくらいの小さな声で、私に尋ねたのです。
「なあ、美月。その名刺入れ…。おそろいのやつ、もう使ってないの?」
その声には、少しだけ感傷的な響きがありました。
まるで、私だけが思い出を捨ててしまったとでも言うように。
私は、彼の目をまっすぐに見つめ返しました。そして、彼が手にしている、真新しい私の名刺を、静かに指差します。
新しい名刺の意味
「翔平。私の名刺、社名までちゃんと見てくれた?」
彼の視線が、私の指先から名刺へと落ちていきました。
そこに印刷されているのは、彼が知っているはずのない、全く別の会社の名前。
彼の顔が、驚きと混乱、そして最終的には全てを理解したという表情に変わっていきました。
私が使わなくなったのは、ただの名刺入れではありません。
あなたといた過去のすべてを、あの会社に置いてきたのです。もう、私はあなたの知っている私ではない。
お揃いだった名刺入れは、もう私の手元にはありません。
新しい名刺と、新しい私。彼との過去を乗り越え、ようやく手に入れた、私だけの未来の証です。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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