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彼「ペアリングは恥ずかしい」→後日、彼の薬指には“知らない女”とのペアリングが光っていた【短編小説】

彼とのペアリングが欲しかった
「ねえ、涼介。私たち、ペアリングとか買わない?」
付き合って1年の記念日に、私はずっと憧れていた提案を、彼氏の涼介にしてみました。
しかし、彼の反応は私の期待とは正反対のものでした。
「えー、ペアリングなんて恥ずかしいよ。男がつけるもんじゃないだろ。俺、そういうの苦手なんだ」
少し馬鹿にしたような、うんざりしたような口調でした。
がっかりした気持ちを隠し、「そっか、そうだよね」と笑うので精一杯でした。
それでも記念の証が欲しかった私は、後日一人でデパートへ行き、自分だけのものとして、シンプルなシルバーリングを買いました。
左手の薬指で控えめに光るその指輪は、私だけのお守りのような存在でした。
それから数ヶ月が経ったある日。
共通の友人たちとの飲み会でのことです。賑やかな会話の最中、ふと向かいに座る涼介の手に目をやりました。
彼がグラスを持とうと差し出した、その左手。薬指に、何かがキラリと光ったのです。
「え…?」
心臓が大きく跳ねました。
私の視線に気づいたのか、涼介は慌てたように手をテーブルの下に隠します。
でも、見間違いではありません。
そこには、指輪がはめられていました。しかも、そのデザインは…。
私が自分自身に買った、あのお守りの指輪と全く同じものに見えました。
頭が真っ白になりました。「ペアリングは恥ずかしい」と言った彼の言葉が、頭の中で何度も繰り返されます。
苦手だと言っていたはずの指輪を、彼は今つけている。
それはつまり、私とではなく、他の誰かと“ペア”でつけているということなのでしょうか。
私とはつけれないペアリング
私とのペアは「恥ずかしい」けれど、他の誰かとなら「恥ずかしくない」。
その残酷な事実が、ハンマーのように私の心を打ちました。友人たちの楽しそうな笑い声が、どんどん遠くなっていきます。
その日、私は彼に何も聞けませんでした。
ただ、家に帰ってから、自分の左手の写真を一枚撮りました。
そして、「その指輪、誰とお揃いなの?」という言葉を打ち込んでは消し、結局、何も言わずに彼とのトーク画面を閉じたのです。
彼が最後まで答えなかった問いの答えは、もうとっくに分かっていましたから。
私とのペアを拒んだその手で、彼は別の誰かとの繋がりを、誇らしげに光らせていたのです。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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