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「人の冷蔵庫を漁る友人」亡き父の“お供え物”を見つけ、顔面蒼白&音信不通になった話【短編小説】

人の家の冷蔵庫を開ける友人に嫌気がさしていた
私の友人の莉奈は、私の部屋に遊びに来ると、自分の家のように冷蔵庫を勝手に開けるのが癖でした。
「お邪魔しまーす」という言葉と共に、真っ直ぐキッチンへ向かう彼女。
「なんかないー?」と言いながら、缶チューハイやデザートを探す姿は、もはや見慣れた光景でした。
でも最近、彼女の行動は少しエスカレートしていました。
冷蔵庫の中身をじろじろと眺めては、「真琴の冷蔵庫、いっつも賞味期限ギリギリの物ばっかりじゃん!ウケる」「ちゃんとご飯食べてるの?」などと、悪気のない笑顔で私の心をえぐってくるのです。
私はいつも「節約してるんだよ」なんて、曖昧に笑って返すしかありませんでした。
その日も、莉奈はいつもの調子で私の部屋へやってきました。
そして、当然のように冷蔵庫の扉を開けます。
冷蔵庫の奥にあった”ある物”に手が止まる
「わ、今日は結構入ってるじゃん!でも、あ、このお肉、今日までだ。危なっ」
楽しそうに食材を品定めする彼女の手が、冷蔵庫の奥でぴたりと止まりました。
そこには、私が一番奥に隠すように置いていた、一つのタッパーがありました。
「ねえ、これ何?」
莉奈が指さしたタッパーには、少し古びた文字で「お父さんへ」と書かれた付箋が貼ってありました。
中には、きれいに盛り付けられた筑前煮が、少し霜をまとって凍っています。
「ああ、それ…」
私は、できるだけ平静を装って答えました。
「去年亡くなった父の好物だったの。四十九日が終わるまで、毎日お供えしてたんだけど…その最後の一つが、なんとなく捨てられなくて。お守りみたいなものかな」
私の言葉を聞いた瞬間、莉那の顔から笑顔が消えました。
彼女の目が大きく見開かれ、さっと血の気が引いていくのがわかりました。
人の心の、最もデリケートな部分に土足で踏み込んでしまったことに、彼女自身が気づいたのでしょう。「ご、ごめん…私…」と絞り出したきり、莉奈は言葉を続けられませんでした。
その日を境に、莉奈から連絡が来ることはなくなりました。
きっと、自分の無神経さを恥じて、私にどんな顔をして会えばいいのか分からなくなってしまったのだと思います。
少し寂しい気持ちはありますが、同時に、私の心の聖域が守られたことに、どこか安堵している自分もいます。
親しい仲にも、決して踏み込んではいけない領域があるのだと、静かになった部屋で一人、考えていました。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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