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「TPOを考えろ」と服装にダメ出しばかりの上司。→上司がクビになった送別会に、”全身ハイブランド”で出席してやった。【短編小説】

TPOに厳しい上司からのダメ出し
私の職場に、ファッション好きな女性社員の間で天敵と恐れられている上司がいました。
上司の名前は田口部長。その口癖は、呪文のように繰り返される「TPOを考えろ」でした。
私、明里はアパレル系の会社で働いていることもあり、お洒落には少し自信がありました。
もちろん、オフィスにふさわしい服装を心がけていましたが、田口部長の“TPO”の基準は、あまりにも厳格で理不尽だったのです。
「明里さん、そのブラウスは色が派手すぎて目に痛い。TPOを考えろ」
「また新しいスカートかね?丈が少し短くないか?TPOというものをだな…」
仕事の成果を褒められることは滅多にないのに、服装のダメ出しだけは毎日のようにありました。
だんだんと私は自信をなくし、服を選ぶ時間が苦痛になっていきました。
同僚のサキに「また言われちゃった…」と愚痴をこぼすと、「明里の服、全然普通だし可愛いのにね。あの部長、時代が昭和で止まってるんだよ」と慰めてくれましたが、私の憂鬱な気持ちは晴れませんでした。
そんなある日、社内に激震が走りました。
なんと、あの田口部長が、重大なコンプライアンス違反で懲戒解雇されることになったのです。
社内は一日中その話題で持ちきり。
それを聞いた瞬間、私の心に湧き上がってきたのは、「解放感」と、そして正直なところ「ざまあみろ」という気持ちでした。
そして数日後、誰が言い出したのか、そんな田口部長の送別会が開かれるという連絡が回ってきました。
ほとんどの女性社員が欠席する中、私はすぐに出席の返事をしました。
私の頭の中には、ある計画が閃いていたのです。
送別会の当日。
私はクローゼットの奥から、ずっと着る機会を失っていた、とっておきの戦闘服を引っ張り出しました。
憧れのブランドで買ったワンピース、それに見合うハイヒール、そして、自分へのご褒美に買ったばかりの小さなブランドバッグ。
今の私が出せる、最高の”全身ハイブランド”コーデです。
会場の居酒屋に入ると、同僚たちが息を飲むのが分かりました。
サキが駆け寄ってきて、「明里、すごい!めちゃくちゃ綺麗だよ!」と興奮気味に囁きます。
そして私は、主役である田口部長の前に、ゆっくりと歩みを進めました。
彼はビールジョッキを片手に、驚きと、どこか悔しさが入り混じった顔で私を凝視しています。
私は最高の笑顔を田口部長に向け、はっきりと言いました。
「田口部長、今まで大変お世話になりました。ところで、今日の私のこの服装…“TPO”的に、いかがでしょうか?」
田口部長は「あ…、いや…」と何かを言おうとして、結局言葉にできずに口をパクパクさせていました。
その情けない顔を見た瞬間、今までの鬱憤がすべて消え去り、胸がスカッとするのを感じました。
理不尽な言葉で私を縛りつけていた上司への、これが私なりのささやかで、最高の復讐でした。
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