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アプリで会ったイケメンは、別人の”おじさん”。「弟です」の言い訳に即通報し垢BANさせた【短編小説】
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マッチングアプリの悲劇
スマートフォンの画面の中で笑う彼は、まさに私の理想そのものでした。
彼の名前は亮平さん。
三十代前半で、都内のデザイン事務所で働いているという彼は、プロフィール写真の笑顔がとても素敵な人でした。
メッセージのやり取りも楽しく、私の趣味である美術館巡りにも詳しくて、私たちはすぐに意気投合。
「今度、一緒に企画展を見に行きませんか」と誘われ、私は二つ返事でOKしました。
待ち合わせは休日の昼下がり、美術館のエントランス。
少し早めに着いた私は、期待に胸を膨らませながら、スマートフォンで彼のプロフィール写真をもう一度確認していました。
こんな素敵な人が、本当に私の前に現れるんだろうか。
約束の時間を五分過ぎた頃、「ごめんなさい、少し遅れます!青いシャツを着ています」と彼からメッセージが届きました。
ほっとして顔を上げると、一人の男性がこちらへ小走りで向かってくるのが見えました。
青いシャツを着ています。
でも、その姿は、私が知っている亮平さんとは似ても似つかないものでした。
大切なのは誠実さ
「沙織さん?はじめまして、亮平です」
目の前の男性は写真よりもずっと年上で、髪も薄くなり始めていました。
人の良さそうな笑みを浮かべていますが、爽やかさとは程遠い疲れた印象です。
私が言葉を失っていると、彼は気まずそうに口を開きました。
「あー、ごめんごめん!写真はね、弟なんだ。俺、こういうの初めてで、顔出すの恥ずかしくてさ。でも、メッセージのやり取りは全部俺だから!」
悪びれもせずに放たれた言葉に、頭が真っ白になりました。
弟?恥ずかしい?あまりに身勝手で人を馬鹿にした言い訳に、期待していた自分が心の底から惨めになりました。
怒りよりも先に、深い脱力感が私を襲います。
私は彼から視線を外し、作り物めいた笑顔を浮かべました。
「そうだったんですね。すみません、急用を思い出しましたので、これで失礼します」
彼の返事も聞かずに踵を返し、私は足早にその場を去りました。
近くのカフェに駆け込み、震える手でアプリを開きました。
そして彼のプロフィールを開き、迷うことなく「通報」ボタンを押しました。
虚偽のプロフィール、なりすまし行為。
今日起きた出来事をありのままに書き込み、送信しました。
数日後、運営事務局から一通の連絡が届きました。
調査の結果、彼の行為は重大な規約違反と認められ、アカウントは永久停止処分になったとのこと。
私の行動が、次の被害者を防いだのかもしれない。
そう思うと、少しだけ心が軽くなりました。今回の経験は苦いものでしたが、人を見る目を養う、良い教訓になったと思っています。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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