17.05.09(Tue)

あなたならいくら支払いますか? ファッション鑑賞のお値段やいかに!?

Rieko Shibazaki

Rieko Shibazaki 編集/ライター

ファッション誌、カルチャー誌の編集を経てフリーに。映画人やデザイナーなどのインタビューを始め、ファッションからゴシップまで幅広く執筆。幼少期&学生時代をNYで過ごしたこともあり、ミュージカル&海外ドラマ好き好きな映画のジ...

『メットガラ ドレスをまとった美術館』

5月1日にメトロポリタン美術館(通称MET)のコスチューム・インスティチュート(服飾部門)で、恒例のガラパーティが開催された。同館ではその年の目玉として毎年大々的な服飾展を主催するのだが、その前に資金集めのためのガラパーティを行なう。ちなみに今年の展示は「川久保玲 / コム デ ギャルソン 間の技(Rei Kawakubo and the Art of the In-Between)」。現役ファッションデザイナーの個展としては1983年のイヴ・サンローラン以来。さらに前衛的なデザインと寡黙なデザイナーとして知られる川久保玲にフォーカスした展覧会ということで、日本でも連日さまざまなメディアを賑わせているのでご存知の方も多いでしょう。

ちょうどそんなコスチューム・インスティートのガラパーティに合わせて、映画『メットガラ ドレスをまとった美術館』が公開中だ。今作では、2015年に開催された同館の「鏡の中の中国(China:Through The looking Glass)」展の準備風景からガラパーティまでの様子を追いかける。劇中でも語られているように、今でもMETのコスチューム・インスティチュートは本展示スペースを中心に、スタッフのオフィスから修復部屋、収納庫、資料庫まですべてが地下にある。

私自身10数年前にこのコスチューム・インスティチュートで学んでいたのでよく分かるが、地下独特の閉塞感はときとして人の心を不健康にさせる。その心の均衡を保たせてくれているのが、美しいファッションのような気がする。いずれにしろ、保守的な美術館ではファッションをアートとして認めない人が多く(それが本作の大きなテーマ)、ファッション部門は地下に追いやられ、今でもそのままというわけ。

アナ・ウィンターとアンドリュー・ボルトン ©2016 MB Productions, LLC

しかし、そんな美術館のパワーバランスが、アナ・ウィンターによって激変し始めているのだ! たとえば、美術館員はガラパーティ前日に行うリアーナのリハーサルのために館内の展示スペースの一部を閉鎖することに反対する。一般客に失礼だと。ところがアナは「閉鎖するわよ。一般客はまた来ればいいんだから」のひと言で即問題解決。ファッション展のためにほかの美術部門がこんなにもあっさりと妥協することなど、数年前まではほとんど考えられなかったはずだが、彼女がいなかったらファンドレイジグができず、美術館の赤字続きに拍車がかかるだけ。そんなアナのリアル『プラダを着た悪魔』(03)節や絶対的パワー、天才キュレーターでありながらもアジアの歴史解釈にはらはらさせられるアンドリュー・ボルトンとその葛藤。そんなアンドリューに中国文化の複雑さや配慮すべき点を伝授して、プライドを傷つけずに上手に導くウォン・カーウァイ(本展ではクリエイティブコンサルタントを務めている)の手腕。今作は美術館の舞台裏やパワーバランス、さらに東西の文化衝突やセレブの様子など、おいしいところがギュッと詰め込まれた上質なドキュメンタリーに仕上がっている。

今や5月頭の風物詩となっているガラパーティは、デザイナーにとっては自身のアーティスティックセンスを見せつける絶好のチャンスだし、セレブたちはそんなドレスに負けない存在感と美力を放ってスタアを誇示する営業の場でもある。とはいえ誰でも参加できるわけではなく、METから招待を受けても参会者たちは自らチケットを購入せねばならない。米web版フォーブスによると、2017年は1人あたりのチケットが約$30,000(約330万円)、あるいはテーブルにつき約275,000ドル(約3025万円)だったとか。

©2016 MB Productions, LLC

【チケットは1人約330万円!?】

一方、METは2013年に入館料の金額表示が誤解を招いていると訴えられた。同美術館の入館料は大人25ドル。しかしこれはあくまでも任意なので、自分の思う額を支払えばいいし、払わないという選択肢もあり。だけどMETは当たり前のように25ドルと表記し、「推奨」の文字はほとんど目につかないほど小さく印していた。しかも任意だからとこっちが1ドル札しか出さないと、窓口担当はあからさまに嫌な顔をして威嚇攻撃。METは当初この訴えを軽く考えていたようだが、結果は改善を要求されるものとなり、今では入館料表示に「任意」と大きく表示するほか、「入館料の支払いはあなた次第です」といったサインも出している。なぜなら、METはニューヨーク州から無償で土地を借り、税金も免除される代わりに、美術館を市民に無料解放するという1893年の州法がベースにあるから。

つまりこれからMETに行く予定の人は、寄付という感覚で自由に入館料を払えばOK! でも、『メットガラ ドレスをまとった美術館』を観たら、展覧会1つにどれだけの資金と労力とクリエイティビティが費やされているかが分かるので、やはり「お得」という意識だけで、ただで入るのは違うのではないかと思う。

劇中ガラパーティにやってきて「パーティだぜ。イェ~イ!」と盛り上がっていたジャスティン・ビーバーだって、展示スペースは素通りしているのに(ひとつも観てない!)多額のチケット代を支払っているんだから!

©2016 MB Productions, LLC

『メットガラ ドレスをまとった美術館』
監督: アンドリュー・ロッシアンドリュー・ロッシ
キャスト: アナ・ウィンター、ウォン・カーウァイ、アンドリュー・ボルトン
公式サイト

©2016 MB Productions, LLC