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15.12.21(Mon)

映画『サンローラン』で見える、デザイナー交代劇の舞台裏

ELIE INOUE

ELIE INOUE Fashion Journalist

神戸の大学を卒業後、単身渡米。NYのファッション業界に携わり、雑誌のライター・コーディネーターとして経験を積む。現在はParisをベースにヨーロッパを駆け回りながら、海外取材やコレクションを通してトレンド分析・考察するジ...

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12月4日から一般公開されている映画『SAINT LAURENT / サンローラン』。2014年に公開された『イヴ・サンローラン』とストーリー構成は同じものの、テーマも撮り方も大きく異なります。彼の退廃的に墜落していく描写がよりリアルに、独特の色合いやカット割りを盛り込んだ類稀な映像美で、アート作品のように仕上がっています。ファッション界のスターとして最も輝いた10年間に味わった孤独と快楽、苦労と成功、そして華やかなコレクションとは裏腹に壮絶な泥沼にはまっていくサンローラン。

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© 2014 MANDARIN CINEMA EUROPACORP ORANGE STUDIO


■ 業界全体の過密なスケジュール


インターネットもスマホもSNSも普及していない時代に、これだけの苦しみを抱えていたサンローランを観て、皮肉にも近年のデザイナー交代劇にどこか納得した私。直近で最も衝撃だったのが、前シーズンでメゾンのクリエイティブディレクター職退任を発表したChristian Diorのラフ・シモンズ、BALENCIAGAのアレキサンダー・ワン、そして14年間在籍したLANVINのアルベール・エルバス。「個人的な理由」や「ブランド側の意向」などと公式的な退任理由はさまざまですが、密かにファッション業界人から取り沙汰されているのは“過密過ぎるスケジュール”。

■ 多忙さが創造性を殺す


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(左からラフ・シモンズ、アレクサンダー・ワン、アルベール・エルバス)


クリエイティブ・ディレクーはメンズ・レディースともに年間6つのコレクション(オートクチュールがなければ4つ)で発表するアイテムのデザインだけでなく、キャンペーン広告やトランクショー、展示会に続きインタビュー対応など分刻みで仕事をこなさなければならない。さらにSNSが台頭した頃から、ファッション業界全体がファストファッションの波に押されてスピードは日増しに加速しています。特に、大手メゾンと自身のブランドを抱えるデザイナーは、就任後は否が応にも大手メゾンに時間を費やさなければならず、自身のブランドの内情がもつれにもつれるという噂も。

大手メゾンの歴史と伝統というプレッシャーだけでも押し潰されそうな精神状態に追い込まれるにも関わらず、一人への過重な負担への打開策をどうにか模索しなければならない。何よりも、過密なスケジュールが原因でデザイナーの創造性は失われていくのではないかと不安……。

■ 時代が生んだ怪物


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そんなことを考えていた矢先、『L’official』に掲載されていたジョナサン・ウィリアム・アンダーソンの一日のタイムスケジュールを読んだ時に思わず「絶対嘘だ!」と叫んでしまいました。「今求められるデザイナーはLondonから。唯一無二のクリエイションに魅了される理由」でもご紹介したように自身のブランドJ.W.AndersonとLOEWEのクリエイティブディレクターを兼任している彼は、今ファッション業界全体を引っ張っている若手。寝る間を惜しむどころか、もはや自己を崩壊しているのでは?と心配になるほど重労働と圧力のはずが、「プライベートの時間も大切にしている」と語っています。普通に考えると有り得ないこと。もしかすると彼には1日30時間程度与えられているのかも……。

多くのベテランデザイナーが退任していくなかで、アンダーソンは時代が生んだ怪物。今や、デザインの良さやクリエイティビティだけではデザイナーが務まらないという厳しい時代を迎えています。純粋に“良い物を創りたい”と願うデザイナーには時間と空間、最適な環境を与え、ものづくりに真摯に取り組んで欲しいもの。デザイナーがそこに向き合えないのであれば、ファッションは一体どこへ向かっていくのでしょうか―。

ELIE INOUE

instagram@elieinoue